SCALE SYSTEM
/ DAS SKALENSYSTEM
/ スケール・システム
Records of creation in KIAC Artist-in-residence program 2026/2027, 2026/7/19 – 8/3
Work in progress
2026/7/31-8/1
ワーク・イン・プログレス上演

photo by bozzo

Vortrag vor der Aufführung
WIP上演前のレクチャー
photo by bozzo
実際に動物の「骨」を拾いに行くことから始まった今回の滞在制作。約2週間のクリエーションで『スケール・システム』のワークインプログレスが完成した。
クラシック音楽の演奏家というのは、私たちからはどこか遠い存在のように感じられる。
しかし加藤さんは、「演奏する身体」「聴く身体」を立ち上げるための振り付けのメソッドを編み出し、ダンサーの岩田さんと共に表現を模索してきた。
彼女たちのパフォーマンスを観ていると、遠いはずだった存在に対する想像が膨らみ、加藤さんがこれまで様々な現場で体験してきたヴァイオリニストとしての身体感覚が共有され始めているような気がする。
わからないことをわからないなりに自由に想像させてくれるパフォーマンスが、誕生しようとしている。
加藤さんにとって、岩田さんにとって、「骨」とは、「スケール・システム」とは何なのか?
彼女たちの身体が何を立ち上げようとしているのか、楽しんでもらいたい。
笹原 麻里依(芸術文化観光専門職大学 3期生)
開演前のレクチャー。観客には本日のリサイタルのプログラムが配られてある。舞台袖にホワイトボード。舞台上、観客正面を向く譜面台に、この台本が置いてある。ヴァイオリニスト、入場。
Vortrag vor der Aufführung
「みなさん、こんにちは。本日は、お暑い中お集まりいただき、本当にありがとうございます。
今日は私・ヴァイオリニストの加藤綾子と、ダンサーの岩田奈津季さん、 2人で約 2週間この城崎国際アートセンターに滞在したんですけども、その滞在の間に作っていた作品『スケール・システム』の、途中成果を発表するワークインプログレスとなります。中間発表みたいな。つまり、完成してないってことです。「いまこんな感じですよ」っていう、ご報告になります。
発表の前に、ちょっと、プレレクチャーをさせてください。えーっと、みなさん、普段どんな歩き方をしていますか? あるいは、きょうは、どんな靴をはいてきましたか? わたしは、城崎にきてからもっぱらスニーカーかサンダルなんですけど、こう、かかとが分厚いんですよね。だから、いまってほとんど無意識のうちに、踵から足をおろして歩くんです。こうやって。(ぐるぐる歩いてみせる)ほら、そうすると、なんかズボンもしゅっとしてかっこいいじゃないですか。でも、例えば、もともと着物とか下駄とか身につけていた人は、ちがう歩き方をしていました。かかとが薄い下駄とか足半(あしなか)をはいたり、お腹をきつく帯で巻いたり。すると、こんな歩き方になります。(実践する)
いつから、かかとから足を下ろして歩くのがかっこいいとか、きれいな歩き方ってことになったんでしょう?
あるいは、こんな話でもいいです。──あの、わたし、ヴァイオリニストなんですね。ヴァイオリニストって名乗ってるんですよ。だいたい3歳か4歳くらいの時にバイオリンを始めたんですよ。わたし東京都目黒区の出身で、そこそこ裕福な家で、 9つの兄と11上の兄がいて、 2人男の子が続いて、待望の女の子誕生だし、せっかく女の子なんだから音楽やらせたいよねつって。当時、ま、女の子が音楽をやると言えば、ピアノであることが多かった。今はちょっとわかんないですね。今は、ちっちゃな集合住宅が増えて、ピアノも値上がりしちゃったから、あんま置かないところ多いかな。とにかく、当時はピアノをやらせたかったんだけど、うちマンションだったので、それもちっちゃいマンションだったので、しかも私は、(強調して)生まれながらにしてヴァイオリニストだったので、「ヴァイオリンをやりたい」って言ったんです。 3歳くらいで、バイオリンを始めました。で、もちろん最初はただのお稽古事だったので、そのままコンコンコンコンコンコンずっとバイオリンをやって、もちろん年上で何度も挫折を仕掛け、もうやめたいなって思うことも何度もありましたけれども、まあなんだかんだ続けちゃいまして、大体中学生くらいの時に、やっぱりもう音楽の道に進むって言って。その後、まあ、辞めるに辞められずヴァイオリニストというものを今日までやってきたわけです。
いろんな体を、わたしはたぶん、受け継いできました。それはバッハであったり、モーツァルトであったり、ベートーベンであったり、イザイであったり、プロコフィエフだったり、ヴァインベルクであったり、デュティユであったり、林光であったり、西村朗であったり、いろんな五線譜が残してきた体を私は継承してきて、それはレッスン室であったり、ステージ上であったり、楽屋裏であったり、オーケストラの現場であったり、ちょっとしたトイレ休憩だったり、いろんなところで私は、自分の先生であったり、自分の同僚であったり、自分の先輩であったり、そういう人たちから、ヴァイオリニストの、クラシック音楽を行う人間としての体を受け継いできました。
30年近くヴァイオリニストをやり続けて、いま改めて、クラシック音楽と呼ばれるこの振る舞い、この体は何なのであろうと考えるようになりました。昨年から、まずは『肉』。そして『皮』。そして今回、『骨』という視点で、演奏家の身体を、作ってみることにしました。
で、『スケール・システム』なんですけど。(ホワイトボードを引っ張ってくる)これ何かっていうと、音階練習を、こう、体系立ててまとめた、教本みたいなものです。スケールっていうのは音階のことですね。(五線譜を書きながら)ドレミファソラシー労働シーラスファミリードレミファソラシュラレルシラソファミみたいな。で、あらゆるパターンの音階を練習することによって、およそクラシック音楽の作品には対応できるだろう、みたいなことを考えた人が、何人かいるんですね。ピアノにもヴァイオリンにも管楽器でもなんでも。
今回は、カール・フレッシュという人が書いた、ヴァイオリンのための音階教本をもとに、作品をつくりました──「CARL FLESCH」。(ホワイトボードに書く)英語です。でも、このひとはハンガリーの生まれだったので、もともとはこう書いたでしょう。「Károly Flesch」。(ホワイトボードに『Károly Flesch』と書く)さらにいえば、ハンガリーってことは、姓→名の順番、つまり「加藤綾子」とおんなじなので、本当はこう呼ばれたかったかもしれません。「Flesch Károly」。(ホワイトボードの『Károly』と『Flesch』に、相互の矢印を引く)
彼は、彼が書いた音階教本を『SCALE SYSTEM』と名付けました。あ、でもこれも英語ですね。彼は7歳だか8歳だかでオーストリアのヴィーンに渡って、この教本をはじめに出版したのはドイツ語圏だったので、ほんとは『DAS SKALENSYSTEM』と名付けました。たぶん。(『DAS SKALENSYSTEM』と書く)とにかく、この教本は、いまでも世界中の音楽学校やら入学試験やらなんやらで使われてます。きょうは、この、フレッシュ・カーロイのダズ・ズカールンジズデムをつかって、振付作品のようなものをやってみます。
(観客をまっすぐ見つめてから)──どうですか。いま、わたしの身体は、みなさんからどれくらいの距離にありますか。
ってことで大変前置きが長くなったんですけども、そろそろあの、『スケール・システム』ワークインプログレス公演を始めさせていただきます」
Hauptteil
ヴァイオリニスト、譜面台をななめに置いて、退場。暗転。骨、舞台中央でうずくまる。しばらくのち、動き出す。ゆっくり明転。骨はこのあと、およそ15~20分かけて、立ち上がる。
骨が中腰くらいになったら、開演アナウンス。
「Vielen Dank, dass Sie heute zum Violin-Recital von Károly Fleschgekommen sind.
Vor Beginn der Vorstellung möchten wir Ihnen einige Hinweise und Bitten mitteilen.
Das Essen, Trinken und Rauchen im Zuschauerraum ist untersagt. Bitte nehmen Sie Ihre Mahlzeiten und Getränke im Foyer ein und rauchen Sie in den dafür vorgesehenen Raucherbereichen.
Das Fotografieren, Filmen und Aufnehmen mit Kameras, Smartphones oder ähnlichen Geräten ist während der Vorstellung strengstens untersagt.
Da dies den Ablauf der Veranstaltung stören könnte, bitten wir Sie außerdem, Ihre Mobiltelefone und andere Geräte, die Geräusche verursachen könnten, vorab auszuschalten.
Bitte haben Sie noch einen Moment Geduld, bis die Vorstellung beginnt」
訳:本日は、カーロイ・フレッシュ・ヴァイオリン・リサイタルにご来場いただき、誠にありがとうございます。
開演に先立ちまして、お客様にお願いとご案内を申し上げます。客席内での飲食・喫煙は禁止されております。飲食はロビーにて、喫煙は所定の喫煙所にてお願いいたします。
開演中、カメラやスマートフォンなどによる写真撮影・録画・録音は、かたくお断り申し上げます。
また、進行の妨げになりますので携帯電話や音の鳴る機器の電源はあらかじめお切りくださいますようお願い申し上げます。
それでは、開演まで今しばらくお待ちくださいませ。
ヴァイオリニスト、入場。骨の後ろに立ち、お辞儀をし、バッハを弾き始める(14分ほど)。弾き終わったら、お辞儀をして退場。退場してしばらくしたら終演アナウンス。*いずれの間も、骨は変わらず立ち上がり続けて!
「Damit sind alle Vorstellungen des heutigen Tages beendet.
Bitte achten Sie auf Ihren Weg nach Hause und vergessen Sie nichts.
Vielen Dank, dass Sie heute bei uns waren」
訳:これをもちまして、本日の公演は全て終了でございます。
お忘れ物のないよう、お足下に気をつけてお帰りくださいませ。
本日はご来場いただきまして誠にありがとうございました。
ヴァイオリニストの退場後、立ち上がった骨はしばらくその場で踊る。やがて、自分が歩けることに気がついて、ゆっくりヴァイオリニストの後を追うようにして退場する。
終了。
*本テキストは、アーカイブ公開にあたって加筆・修正したものです。
ドイツ語訳:Deepl.com https://www.deepl.com/ja/translator
音声読み上げ:speecher https://speecher.org/ja/german


Choreograph & Direction: Ayako Kato
Dancer: Natsuki Iwata
Violinist: Ayako Kato
Observer: Marie Sasahara
Photo: bozzo / courtesy of Kinosaki Internatinal Arts Center (Toyooka City)
Support: Kinosaki Internatinal Arts Center (Toyooka City)
KIAC Artist-in-residence program 2026/2027
2026/7/19 – 8/3

courtesy of Kinosaki Internatinal Arts Center (Toyooka City)
Research
2026/7/20
骨をめぐるリサーチ

