謝辞 – 《昔》について

2nd Album 《昔》のリリースから1週間が経ちました。

私の極めて個人的なこのアルバムは、

こうも困難な時期であるにも関わらず、

想像より多くの方の元に届いたようです。

このアルバムや私の音楽にかかわってくれた、あるいはこれからかかわってくれる、

すべてのひとびとに、あらためて感謝を。

Je dis un GRAND MERCI à TOUT.

BACK BORN – 《昔》制作背景

各曲の詳細な制作背景は、アルバム特典のブックレットに記載してあるとして、ここでは、《昔》そのものの背景についてすこし書き付けておきます。

2nd Album《昔》は前作、1st Album《BAN》から1年以上がたってのリリースとなりました。

はっきりと制作を決定したのは、ベルギー留学を終え、完全帰国してからのこと──つまり2021年7月頃だったと記憶しています。まず、完全帰国記念としてなにかしらの企画をやりたいが、コロナ禍の影響もあってオフでの企画は難しく、そもそも帰国準備等で死ぬほど時間が足りませんでした。そこで漠然と固まってきたものが《SUMMER 2021 from Belgium》という、ひねりも何もないタイトルの、一連の動画企画。

でも動画だけではすこし寂しい、ということで、ずっとあたためてきた、「アンソロジーっぽい、撮り溜めた即興演奏のアルバム」というアイデアで締めくくりにしてしまおう──それが、《昔》制作の背景でした。たぶん。ほんのふた月ほどまえのことなのに、もう記憶があやふやです。

その後アルバムのコンセプトやキービジュアルの決定にさらに時間がかかり、新作を録音し、過去の音源すべてを洗ってリマスターし、隔離を終えてただちにこもり始めた山での夏は、怒涛でした。一連の動画企画第一弾だった《SESSION ! 》の動画制作が遅れに遅れていて、スケジュール的にはまったく余裕がありませんでした。既に販売終了したモデルのMacbookが断末魔と心停止を繰り返し、4Gのアンテナが1本も立たない山奥ゆえ、毎日のように「今日やること」をメモ用紙に書き付け、コワーキングスペースに車を走らせ、潤沢な充電と通信環境に咽び泣きながら5時間ぶっ続けでキーボードを叩き、ようやく光回線が開通したのは8月末のこと──つまり、《昔》リリースの1週間前を切っていました。

私はこの夏、ひたすら山にこもっていました。人と直接会うことを、物理的に断っていました。そばにいたのは家族と、犬2匹だけ。ときおり必要最低限の買い物に行き、感染対策を徹底したコワーキングスペースで、モニターと向き合う。それ以外は弾くか寝るか食べるか編集するか、草を刈るか。クワを振り上げ土を耕し、レンガを押し上げるほどのタフな熊笹を引き抜き、苗を植え、敷地内の木枝をナイフや鋸で剪定し、ときに飛び跳ねながら枯れた山葡萄をはたき落とす、そういう、全身をフルに動かす運動に身をやつしていました。

なにより犬。彼らは、毎朝5時半にきっちり家の者を叩き起こしてくれます。ふとんの上を跳ね、ベランダを跳ね、勢いそのままうんことおしっこをする。アスファルトと雑草の境を何度も何度も飛び越え、タフな熊笹をかき分けてゆく。ご近所迷惑なんて考えなくていい、犬と踊る「喜びの舞」。刃を立てられ、ずるりと落ちる木の枝を掲げる「喜びの舞」。

このアルバムは、そういう場所で作られました。

フランス語も日本語も、お世辞も挨拶も、バズりも炎上もない、好きに踊ることができる場所、──だれかの目が存在しない場所で踊ることを、私はかつても今も、こんなにも好きだった、それを思い出させてくれた場所で、私は《昔》を生みました。

THANKS – 謝辞

このアルバムをたくさんの人に聴いてもらえて、ほんとうにうれしいです。ありがとう。いま、私と犬はもう、舞える場所にいないけれど、いつかまたあそこに帰ることを目指して次をいきる。あなたもいきてください。