みんな大好きヴァイオリン教本の、独断と偏見によるオススメ集。初心者からプロっぽいかたまで、毎日のお供にどうぞ。
contents
独断によるおすすめヴァイオリン教本、2連発。サイモン・フィッシャーとレオポルト・モーツァルト
(個人的)ヴァイオリン教本界の真打2冊。
サイモン・フィッシャー『ヴァイオリン Basics: いつでも学べる基本練習300』
まずはこちら。比較的新しい教本で、サイモン・フィッシャーというヴァイオリニストの著書。音楽之友社から和訳が出版されています。
この教本、初心者はもちろん、万人にオススメできそうな良本なので、別記事にまとめました。もっとみんな使って?

レオポルト・モーツァルト『ヴァイオリン奏法』
そして忘れちゃいけないのが、モーツァルト・パパ──もとい、レオポルト・モーツァルトによる「ヴァイオリン奏法」。
いつの間にか新訳が出てましたね。
なんで忘れちゃいけないのかというと、古典的なヴァイオリン奏法の全てが、ここに書いてあるから。
ここまで紹介してきたヴァイオリン教本は、全部、古典的な音楽・奏法を踏まえたもの。でも、この『ヴァイオリン奏法』には、ある程度現代向けにアレンジされてきた教えや音楽とは違い、300年くらい前のヴァイオリン、そして音楽の基礎が、そのまんま記されているわけです。
じゃあ、ホコリかぶった教えかというと、全くそんなことはない。ボウイングの付け方から音程の取り方まで、丸っと今でも通用します。さすがアマちゃんのパパだね!
結局どの教本がいいんだよ──というときは、このサイモン・フィッシャーとレオポルト・モーツァルトの2冊を買っとくと、あとあと便利だと思います。
ヴァイオリン教本の重鎮。カール・フレッシュ『音階教本』
さて、どんどんエンジンかけていきましょう。お次は、みんなのお友達・フレッシュなカールおじさん。

やたらおいしそうな名前ですが、その中身たるや極悪人そのもの。百ページ以上に及ぶ、ひたすらスケール、スケール、スケール。気が狂う。

ヴァイオリン初心者からプロのオーケストラ団員、生涯どころか来世までお付き合いすること間違いなし。
個人的にオススメは、自分がやっている曲と同じ調性のスケールを、ともかくゆっくりさらうこと。「こんなんどっからどうやればいいのかわかんねえよ!」というかたは、目当ての調性の5〜8番がオススメ。
指のかたち、手首の向き、ポジションチェンジなどをひとつひとつ確かめながら、自分の左手に妙なクセがついていないか確認してみましょう。まさに基礎練習。もちろん、耳掃除にもなります。特に6番以降の重音は効く。
初心者におすすめ。セヴィシック『ヴァイオリン教本』

たっくさんあるのでどれを買おうか迷いますが、表紙に簡単な英語タイトルがついているので、それを参考にするとよいです。私はボウイングがともかく下手くそなので、作品3の「40 variations」をよくさらっています。
初見でも弾けるような譜面と、メトロノーム表示。右手と左手の動きをぴったり合わせて、メトロノームともぴったり合わせる──とまあ、これだけ聞くと大したことなさそうなのに、案外むずかしい。
たとえば最初の曲。

速度標語は『Allegro ♩=132』。ほかにも「p」や「クレッシェンド」記号、アクセント表記が付いていることもあります。これらを忠実に守って、ともかく右手の動き、ボウイングをきれいなかたちで行う。
なにせ40もヴァリエーションがあるので、最初の1曲だけとか、自分の苦手なボウイング使いの曲を抜粋して、毎朝10分でもいいから、継続してじっくりやってました。
元を使うのがニガテな人向けのものや、スピッカートの基礎練習になるものもあります。人差し指に弓ダコができている人は必見です。
シェフチーク(セヴシック): 40の変奏曲 Op.3/ボスワース社/バイオリン教本
中級者におすすめなヴァイオリン教本、ローデ『24のカプリース』
打って変わってシンプルなお名前のエチュード集。(本場の発音だとローデじゃなくてロードらしよ)

ローデのよいところは、まず、れっきとした曲であること。
ざっと楽譜を見て、気に入った曲をさらえばよいのです。結果として血を見るハメになることもままあります。
そして、一曲一曲に、ヴァイオリンを弾くうえで欠かせないテクニックが詰め込んであります。「一弓スタッカートを練習したい!」というとき、ひたすら一弓スタッカートしかない曲とか正直げろげろしちゃうのですが、ローデの場合は違います。
たとえば、こちらの曲なんかは、丁寧に一弓スタッカートとレガートを交互に入れてくれています。

はじめて勉強するかたは21番がオススメかも。調号が♭2つ、一曲通して似たような曲調で、しかも、日本人がニガテとよく言われる3拍子。

基礎練習をしながら音楽も楽しめる良書。これ一冊、一通り弾けるようになれば、大概の曲に出てくるテクニックは学べるはずです。この曲集は何周もしたなァ。
教本って域じゃねえ、J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』
クラシック音楽界のビッグ・ダディこと大バッハ先生のお出ましです。

向かって左がボウイング+自筆譜付きの『インターナショナル』版。右が、ボウイングなど一切なしの自筆譜に基づいた『ベーレンライター』版。
私はベーレンライターを普段使いに、自筆譜やボウイングを確認したいときにインターナショナルを見ます。
もう教本じゃねえって勢いですが、まず作品の完成度がダンチです。
もちろんローデや、ここに挙げていない曲集にも、すばらしい作品がたくさんありますが、バッハの作品は、たとえばヴァイオリン奏者でなくても涙を流してしまうような、全世界共通の美しさがあります。
ヴァイオリン弾きなら、プロはもちろんアマチュアだって知っておいたほうがいい曲集。
じゃあなんで教本扱いなのよ、というと、もちろんテクニック的な側面もあるのですが……なんといっても、暗譜がちょーたいへん。
たとえば、こちらは無伴奏ソナタ第1番より『フーガ』(Fuga)。はじめの主題を弾いたあと、こんな16分音符の群れが現れます。

これだけなら見た目に反してそんなに大変ではないし、弾きやすいものなのですが、問題は終盤。

ほーら、そっくりでしょう?
ここでちゃんと暗譜できてないと、無限ループに陥ります。無限ループって怖くね?
でも、こんなのまだまだ序の口。いっぱいあるので、探してみてくださいね。ソナタ第3番の『フーガ』とか、あまりの美しさと覚えづらさのあまり泣きを見る! 超オススメ!
なかには、一ページ足らずの(音を追うだけなら)簡単な曲もあります。まずはそこらへんから攻めてみましょう。バッハが暗譜できるようになれば、もう何も怖くない。基礎練習とかいうレベルじゃねえ。
できればおすすめしたくない悪魔向け教本、パガニーニ『24のカプリース』
だからもう基礎練習とかいうレベルじゃねえですが、ようやくお出まし、イタリアの陽気でのっぽな小悪魔系あんちゃん。

その昔、『パガニーニの伝記映画』という皮を被った、ただのポ〇ノ映画が2本ほど出たこともありますが、見ずに流しましょう。
こののっぽのあんちゃんは、自分が弾けるのをいいことに好き放題やらかして、あげく、無伴奏ヴァイオリンのための曲集まで残していきました。この男さえいなければ、いま、世界中のヴァイオリン奏者がこんなに苦しむことはなかったのです。オメーいっつもいっつもコンクールの課題曲に現やがって! 早く成仏しなさいっ!
とはいえ、ヴァイオリン弾きなら誰しも憧れる曲集であることも事実。
とかのたまいながら、24番のページをキラッキラッした目で開いているアナタ。
いますぐそのページを閉じて、16番の真っ黒な見開きページを開きましょう。

真っ黒で目が潰れそうですが、どうしても、ど〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜してもパガニーニが弾きたいのならまずはこれがいいと思います。
ゆっくりさらってみるとわかりますが、見かけに反して、そんなに弾きにくくないのです。しかもわかりやすくカッコいい。
パガニーニの作品には、意外とクセみたいなものがあるように思います。
一見とんでもない跳躍だけど、じつは単なる10度の繰り返しとか。真っ黒な音符がいくつも続いてるけど、じつは和音をバラしただけとか。この曲からパガニーニを譜読みするコツ、左手のかたちのコツ、右腕の上げ下げのコツなどなどを、焦らず掴んでいくのがいいんでないかなあ。
例えば、これは9番冒頭。
よく見るとフレッシュなおじさんの6番とか7番とかと似ていますね。まあ、死ぬほど音程取りづらいんですけど。

なので、16番をきちっと終えたら、あとはお好みで。
「トリル責めしてほしい」とか「一弓スタッカート責めしてほしい」とか、どんな要求にも、パガニーニなら答えてくれます。
独断と偏見によるヴァイオリン教本のおすすめ〜終〜
というわけで、ヴァイオリン教本のおすすめでした。
数ある教本の中からチョー独断・偏見で紹介してみましたが、そのうちのどれか一冊でも選んで、基礎練習に用いるだけでも十分かと思われます。私見ダダ漏れですが、参考になれば幸いです。
シェフチーク(セヴシック): 40の変奏曲 Op.3/ボスワース社/バイオリン教本