日記帳

秘密

その公園に集う人々は、秘密を共有する。

 

うつむきながら日陰を探した。うなじが暑いので、足元に注意を向けることにしている。

エアコンと読書を求めて入ったナウいコーヒー・スタンドはあまりにもナウすぎて、椅子がびっくりするほど高くて、机がコーヒーグラスをぶっ倒しちゃいそうなほどちっちゃかった。メニューに「オマエ オコトワリ」と但し書きしてある気がした。

それでも、面の皮の新陳代謝を促すため、小一時間ほど居座る。原田マハは回文かなあ、と思いながらカフェラテをちゅうちゅう吸う。気づく。昔から、新陳代謝は悪いのである。

 

ナウいコーヒー・スタンドを出て、日陰を求めて足元ばかり見つめている。

 

穴ぼこだらけの、うんこみたいな色をした地面だった。なんだろう、この穴は。私の親指は、こんなに太かったかしら。

穴の周りは涼しかったので、しばらく立ち尽くすことにする。ここは日陰になっているということに今、思い至った。

ちょっと見回してみれば、うさんくさいおっさんとお姉ちゃんとお兄ちゃんが、思い思いの姿勢で日陰に隠れている。昼間の公園である。ということは、きっと自分もうさんくさい人間に見えるはずである。

けれども、そのうさんくささはそんなに悪い気がしないのだった。

なぜなら、穴の正体を知っているのは、そこにいるうさんくさい人々だけだからだ。

 

足元ばかり見つめていた。穴だらけだった。ほんの少し見渡せばうさんくさい人々がいて、さらに見上げれば、ガラス細工のような葉と枝の隙間に、蝉の抜け殻がたわわに実っていた。

もちろん、ここにいる我々以外には、誰も知らない。

 

こんなところで、阿呆のように立ち尽くして涼んでいるという、少しの罪悪感と優越感。蝉の実がどんな風に実るのか、葉を透けて通る夏のお天道様がどんなに柔らかか、──ぜんぶ、秘密である。

コーヒー・スタンドの椅子は高すぎるけれど、公園のベンチは背が低くて汚れていて、平日の昼間にはなるほど、ふさわしいのだった。

 

仕事探そ。

ABOUT ME
加藤 綾子
フリーランス音楽家という名のフリーター。 後ろ向きだっていいじゃない 人間だもの あやこ という意識の低さで生きている。ヴァイオリン演奏・ライティングなど、お仕事のご連絡はこちらにお願いいたします。ayakokatovn@icloud.com