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イカしたヴァイオリン・ソナタを紹介するぜ!プロコフィエフ作曲:ピアノとヴァイオリンのソナタ 第1番 作品80

旧ソ連の作曲家:セルゲイ・プロコフィエフヴァイオリン・ソナタについて、「クラシック ツマンネ とかいう前にプロコフィエフがイカしてんだよォ聴いてくれよォ!!」と、叫びたいだけの記事。

プロコフィエフを知らない人のためのざっくり紹介から、楽曲の雰囲気を文字で伝えようと試みます。

【概要だぜ!】プロコフィエフ作曲・ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第1番 へ短調 作品80

 

ざっくり概要

セルゲイ・セルゲイエヴィチ・プロコフィエフ作曲

ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ヘ短調 作品80

  • 第1楽章 きわめて落ち着いた速さで
  • 第2楽章 快速に、粗野に
  • 第3楽章 歩くような速さで
  • 第4楽章 とても快速に – 最初と同じように、きわめて落ち着いた速さで

Sergei Sergeevich Prokofiev

Sonata for Piano and Violin No.1 f-minor Op.80

  • 1st movement. Andante assai
  • 2nd movement. Allegro brusco
  • 3rd movement. Andante
  • 4th movement. Allegrissimo – Andante assai, come prima

Spotifyもほいっ。

ちなみに、私がダントツでオススメする録音は、ピアノにマルタ・アルゲリッチ、ヴァイオリンにギドン・クレーメル、ソナタ2曲に「5つのメロディ」をカップリングという、全方位的に最強の組み合わせです。これ聴いたらもう他の聴けないレベル。

そのほか:プロコフィエフによるヴァイオリン作品

探すと結構色々あります。2台ヴァイオリンのためのソナタまで書いていますが滅多に聴けない。

そのほかヴァイオリン楽曲
  • 2曲のヴァイオリン協奏曲
  • 2曲のピアノとヴァイオリンのためのソナタ
  • ヴァイオリンとピアノのための「5つのメロディ」
  • 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ
  • 2台のヴァイオリンのためのソナタ

でもやっぱピアノとヴァイオリンのためのソナタ1番が群を抜いてる気がする。2番もいいんだけど、やっぱ1番ですよ1番。

【生涯だぜ!】セルゲイ・セルゲイエヴィチ・プロコフィエフさんとは

ついでに、プロコフィエフさんの生涯もざっくりおさらい。プロコフィエフのことを知ってる人は飛ばしてください。

プロコフィエフのざっくりプロフィール

※西暦表記

プロコフィエフのプロフィール
  • セルゲイ・セルゲイエヴィチ・プロコフィエフ(Sergei Sergeevich Prokofiev)
  • 生年月日: 1891年4月23日
  • 死去: 1953年3月5日
  • 出身: 旧ロシア帝国or旧ソ連

丸眼鏡をよく装備していて、ハゲなんだかスキンヘッドなんだかよくわからねー頭が特徴のおっちゃんです。よくみると整ったお顔立ちですが、あんまり愛想はよくなさそう。六本木あたりうろついてそう。

帝政から連邦への変わり目に生まれ、スターリンと同じ日に亡くなったプロコフィエフ

この生没年月日を見てピンときたらすごい。プロコフィエフが生まれたのは1891年4月23日ですが、これはロシアが皇帝バンザイ!帝政ロシア」から、みんな平等!ソヴィエト連邦」へ生まれ変わる前のこと。

そしてだめ押しは、彼が亡くなった1953年3月5日。全く同じ日に、ソビエト連邦共和国の指導者・スターリンも亡くなっています。

言わずもがなのスターリン、独裁政治で有名ですが、そもそも革命以前からずーっと社会主義政党のメンバーで、なんならプロコフィエフよりちょっと年上なだけです。要するにほぼ同世代。もちろん二人とも、がっつり二つの世界大戦を経験しています。

ソヴィエト帰国後のプロコフィエフについて

ソヴィエト連邦といえば冷戦、共産党そして、やたら国民に厳しくておっかない国、というイメージですが、プロコフィエフもその例に漏れず。

1917年、ロシア革命の直前に祖国を発って以降、20年以上海外で活動していましたが、最終的には帰国。色々事情はありましたが、なんだかんだ望郷の念はあった様子。

ところが帰国後、プロコフィエフはソヴィエト国内で厳しい批判を浴びることになってしまいます。ショスタコーヴィチも一緒に糾弾された「プラウダ批判」とか「ジダーノフチナ」とか、詳しくはggってみてください。

 

とはいえ若い頃はぶいぶい言わせていました。音楽院時代なんてそうとうヤンチャしていたようですし、帰国してすぐの頃はかなり調子がよかった様子。音楽院時代のライバルとの話なんかは、自伝でも結構詳細に書いてくれてます。必見。

 

ただしこの時期は、開戦直前、ないしは戦時中に被ります。またまた時代の変わり目です。

ロミジュリだってプロコフィエフの作品だぜ!

プロコフィエフを知らない人は、それでもこの曲をご存じかと思われます。

そう、これです。

ずん、ちゃらっちゃらっちゃらっちゃずん、ちゃらっちゃらっちゃらー

という、アヤシイ雰囲気の管弦楽曲。

あれはプロコフィエフさんが、かの有名なシェイクスピアの戯曲をもとにしたバレエ、ロミオとジュリエットのために書いた音楽。ちなみにこの曲は、ロミオさんちとジュリエットさんちの舞踏会の場面です。

 

また、プロコフィエフ先生といえばなんといってもピアノ曲

なんたってサンクトペテルブルグ音楽院のピアノ科を首席卒業(のはず)。どれか選べと言われたらわたしはこの2曲を選びます。こちらもぜひggってみてほしい。ていうかマルタ・アルゲリッチのピアコン3番は頭おかしい。

  • ピアノのための協奏曲 第3番 ハ長調
  • ピアノのためのソナタ 第7番

 

【解説】プロコフィエフ作曲・ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第1番 へ短調 作品80

小説も自伝も書いていたし、チェスプレイヤーとしてもなかなかの腕前だったプロコフィエフさん。わりと早い段階でつるっぱげになってしまったプロコフィエフさん。高額のギャラをぜんぶ硬貨で支払われて、腹立ってズボンのポケットに突っ込んだら、ステージに上がったとたん穴が開いちゃったプロコフィエフさん。

そんな彼のヴァイオリン・ソナタ第1番を、頑張って文字で表現します。

第1楽章

先に上げたバレエ曲やピアノ曲に比べると、ドアタマからずいぶん雰囲気がちがいますが、この第1楽章の冒頭もう死にたい

ずん……でん……でん……ずんでんでん……

と、ピアノのひっっっくい音域から始まる、重い、足枷でも引きずっているかのような導入。

そこにヴァイオリンが、やはり最低音域(このGはいちばん低い解放弦なので、実質最低音です)で、

「ずーるっ、るるるるるる……」

と、ピアノの歩みを阻む。このヴァイオリンの音は一体なんなのか、あとになってわかります。

 

うねうねふたりでやったあと、今度はピアノが、冒頭と同じ歩みを、高音域で奏でます。

そこにヴァイオリンがひたすら、

「ひょろひょろひょろひょろひょろろろろろろ」

と速い音階を弾いています。

 

音域はまったく違うのに、聴いたひとはみな、きっとこの部分に冒頭と同じものを感じるはず。

このヴァイオリン、いったい何なのかーーというと、作曲家本人がこう言っているそうなんです。

「これは墓場に吹く風なんだ」と。

 

やべー。たまらない。墓場ときた。

それも、なんたってロシアの人なので、日本の燈籠とか置いてある苔むした墓地ではありません。雪はごうごう風はびゅうびゅう、墓石だってかっちんこっちんの、北国の墓場です。

 

夜の墓場。昼だとしても、雲が分厚くて日の光なんて届かない。

闇がかたまりになって、そこかしこに沈殿している。

そうして最後には、こびりついた影だけが残る。

とうとう風も止んでしまう。

そこにいるのは死者だけ。あるいは、死者すらそこから立ち去ってしまったのかもしれない。

息もしてはいけないような静けさで、第1楽章は終わります。

第2楽章

ところがどっこい、続く第2楽章のハイっぷりたるやすさまじい。

のっけからピアノとヴァイオリンが交互に、

「デッデッ!」

「デッデッ!」

「ッデーデレデレデレッ!」

「ッデーデレデレデレッ!」

とやりあうのですが、こんな雰囲気はおよそ自然界に存在するものではない。

 

しかも極めつけは、軍隊の行進みたいなシーンを挟み、サイレンのようなヴァイオリンの不協和音とか突っ込んできます。超イカしてる。もはやここまでくるとロック。

第3楽章

そうして盛り上がったところで、第3楽章は、「なんだか一体どうしちゃったの?」というくらい夢心地。

プロコフィエフのこういう、絶妙なバランス感覚みたいなものが、大好きです。

彼の譜面を見ていると、怒っているからって激昂したりしない、でもとても冷ややかに世間を見つめている――そんな視線を感じます。

 

この第3楽章も、とっても美しくって幻想的でおしゃれで、なのに人を安心させない。決して人を「癒そう」「慰めよう」なんて思っていないように聞こえる。

この美しさは、プロコフィエフが生来持ち得たものなのか、それともフランスに行った経験や、彼が敬意を示していたラヴェルやストラヴィンスキーの影響なのか、恥ずかしながらわかりません。

でも、ほかの楽章と比べると、この楽章は夢見心地すぎて、とくに浮いているような気がするんですよね。

第4楽章

そして最後、第4楽章。第2楽章が軍歌の足音なら、こちらは勝利の凱歌でしょうか。

5拍子と7拍子が入り交じった、いかにも泥臭いリズムなのですが、そこはプロコフィエフ。強烈なアクセントや和音がちりばめられていて、もうなにがなんだかわかんねーレベルのハイっぷり。

 

しかも、プロコフィエフさんは最後の最後でやってくれます。

なんと、墓場の風が戻ってきやがるのです。それもffで。

 

※厳密にはffで戻ってきた後、再びppで墓場の風が吹き、最後の最後はうだるようなメロディで終わる。

こういうところが、プロコフィエフのアニキのいけすかねーけどカッコいいところ。

ぜひこれは生で聴いてほしい。

30分近くプロコフィエフの世界観に振り回された挙げ句、最後、吹き荒ぶ墓場の風に、容赦なく全身をなぶられる感覚はたまりません。

泣ける。

さいごに:冷たくて美しい、プロコフィエフの音楽。

そんなわけで、プロコフィエフ作曲・ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ヘ短調 作品80の紹介なのでした。

 

すでにおわかりの通り、プロコフィエフの音楽は、戦争の臭いや音──硝煙の臭い、銃声、戦闘機の曳光弾──がすぐそばに存在していた、北の国で生まれました。

移動手段といえば馬車で、ちょっと外を歩けば「小鳥さんお花さんおはよう」なモーツァルト、ベートーヴェンの場所・時代とはまるきり違います。

隣人が隣人を監視し、

意にそぐわぬものは徹底的に糾弾し、

明日、処刑台に連行されるのは我が身かもしれず、

戦火は、いつ空から街に降り注いでもおかしくなかった。

 

けれど彼は、その人生の真中で、アメリカやフランスに長い間滞在し、ときに冷遇されながらも、ロシア以外の音楽や空気を肌に感じていました。

子供もいました。奥さんもいました。愛人もいました。

奥さんとは1回離婚して、結局愛人のところに同居したりしてました。

まあ、同性愛者なのにカモフラ結婚しちゃったロシア人作曲家の大センパイとかに比べればおとなしいもんです。

 

そんな環境で生まれた彼の音楽には、冷たくて、皮肉っぽくて、でも愛情が垣間見える、さながらDV夫のような魅力があります。

でも、人が自身の欲求を満たしたいとき、必ずしも直接的な癒しを求めるわけではないですよね?

 

自分のなかの不安や緊張やわだかまりを、誰かに示してほしい。

この苛立ちを誰かに笑ってほしい! 理解して、代弁してほしい!

 

そんな、人にはちょっと言いにくい欲求を満たしてくれる音楽が、クラシック音楽という長い歴史のなかで生まれていたのです。

 

セルゲイ・セルゲイエヴィチ・プロコフィエフ。

今夜寝る前に、おふとんの中で唱えてみてくださいませ。

ちょっとニヒルでイカした、クラシック音楽の作曲家の名前です。

 

ABOUT ME
加藤 綾子
ヴァイオリニスト。 BIOGRAPHY
“duo” – Improvisation LIVE

照内央晴×加藤綾子
“duo”

渡欧前最後の即興演奏。

8/20(火) start_19:50 open_19:20
¥2,500 (当日+¥300)
@試聴室

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