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初めて太宰治を読む人に『人間失格』をオススメしてはいけない理由

れんれん
れんれん
おねえちゃん、ぼく、4歳になったからなんかプレゼントちょーだい!
わたし
わたし
こないだバーガー作ってあげたやん……そうだ、太宰治の『畜犬談』でも読んだげるよ。
れんれん
れんれん
悪趣味っ!

「人間失格 伝えたいこと」でggったあげくにこの記事に辿り着いたあなたは、もしかしたら、夏休みの宿題とかなんちゃって文学デビューとかこの『人間失格』を選んだのだのかもしれない。なんなら、人生初の太宰治作品が人間失格かもしれない。

確かに、この人間失格という題名のインパクトと知名度は群を抜くし、ネットでも学校の推薦図書でも、太宰治と人間失格の字面はセットになっている。

が、ここで私は、あえてこう言いたい。

「太宰治を初めて読む人には、誰であれ『人間失格』はおすすめしません」と。

伝えたいこともへったくれもわからねー『人間失格』

最初から最後までひたすら、ず──────っと光りが見えない一人の男の人生。ズブズブにハマる人もあれば、嫌悪感を催す人もあるかもしれない。

なにせ暗い。暗すぎる。

太宰治の文体は語りかけるようで、リズムもよく、良くも悪くも堅苦しすぎないのだけど、それでも読んで行くのがしんどい。「ちょっと読んで感想文書かなきゃ」程度の人ならば、最初の10ページ程度を読んだ時点で「ええ……」とドン引きする可能性大である。

それくらい、主人公の葉ちゃん、もとい葉蔵はいたたまれないキャラクターだし、周囲に現れる人物もえげつない。むしろお前が人間失格じゃねえの? な輩もいる。

れんれん
れんれん
葉ちゃんが人間失格なら、ぼくは畜犬失格だね!
わたし
わたし
悪趣味っ!
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『人間失格』してない太宰治の、明るい姿

なんて言っている私も、太宰治を初めてまともに読んだのは『人間失格』で、おかげさまで 「太宰治が伝えたいこと」もへったくれもなかった。ドン引きである。

ただ、それでも太宰の文体、ことばには強く心惹かれたので、幸いにも、私にとって人間失格は正真正銘の太宰入門となった。幸いにも。

きっとこの人は、葉ちゃんと同じに人を信じられず、自分を信じられず、ずーっとそういう作品ばっかり書いてきたに違いない──そんな先入観丸出しのまま手に取った次なる一冊は、『走れメロス』を中心とした短編集。『ダス・ゲマイネ』はよくわかんねーのですっ飛ばし、『黄金風景』やら『富嶽百景』やら、あれまあ、

 

あっかるいでやんの……

 

例えば、わずか数ページの『満願』では、ある「美しいもの」と、それを見守る太宰治の内心が清々しく描かれている。これはマジで最強の掌編だと思うから読んで。

『女生徒』は人間失格に通じるあやしさが滲みながらも、年頃ガールの思春期全開でチョー酸っぱい。

この短編集以外もそうだ。太宰版:日本昔ばなしとでも呼ぶべき『お伽草紙』は皮肉まじりのユーモアに満ちているし、中編『正義と微笑』は、これが近代文学と言われてもピンとこないくらい青春しちゃってる。

ここが太宰治の一番面白くて、人間臭い魅力だと思う。太宰治は決して、暗い人間なんかじゃないのだ。

太宰治だってリア充してたんだよ!

確かに、太宰治はアル中でヤク中で女たらしでろくでなし、「人間失格」な側面がたくさんあった。自殺未遂なんて数えるのもあほらしくなってくるレベルである。

けれど反対に、彼は、とても真っ当に生きようとしていた時期があった。そう、太宰治だってリア充してたのである。ばかにしちゃ、いけない。

 

生来、彼は人を笑わせて、粋な男を装っていた。あるいは、装うことが好きだったかもしれない。

『如是我聞』『ヴィヨンの妻』、そして『人間失格』などに連なる後期作品は、彼自身の手でその道化の仮面を剥ぎ取ったのだ──そういう人もいる。

でも、あの明るさが全部嘘で偽りだったかというと、決して、そんな単純なことはないと思う。太宰治は、絶望や苦悩だけでできた人間じゃない。父として家庭を養い、作家として休まず筆を走らせ(時には語り)、何よりも、人として真っ当に生きようとしていた太宰治の姿があることを知っておいた方が、絶対「人間失格」を楽しめるはずだ。

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陽の当たる場所で記された、太宰治が『人間失格』に至るまでの道すじ

そして、太宰治の人生は、そのまま、彼の作品に映っている。これはいわゆる私小説家なら当たり前かもしれないけれど、太宰治はとくに顕著だと思う。

 

『新樹の言葉』で、古い自宅が燃えてもあっけらかんと微笑んでいる兄弟を見、”「君たちは、幸福だ。大勝利だ」という太宰治。

”明ルサハ、滅ビノ姿デアロウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。”と、源実朝にさびしく語らせた『右大臣実朝』。

明るさとも違う、新しい時代の「かるみ」を求めた『パンドラの匣』の執筆途中、太宰治は現実があまりにもかけ離れていることに気づき失望したかもしれない。そのくせ、最期『人間失格』と並行して執筆していた『グッド・バイ』なんて、エンタメ小説さながらである。

 

明るく、人として真っ当に生きようとあがいていた太宰治が、それでも最後にたどり着いた場所が、あの『人間失格』なのだ。

だからぜひ、今回、記事中に挙げたうちのどれか一つでも、最初に読んでみてほしい。『人間失格』の印象だけで、彼のことを決めつけないでほしい。

彼の人生は、作品そのものとなって、いまも確かに残っているのだ。それを踏まえた上で『人間失格』を読めば、彼の伝えたいことやらなんやらに、少し近づけるかもしれない。まあ、伝えたいことなんてなくてただただゲロってた可能性もあるけどな!

初めての太宰治作品に「人間失格」をおすすめしない理由:

登って堕ちる様を楽しもう!ってことだね!
(こいつ……できる!)
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加藤 綾子
ヴァイオリニスト。 biography
《ムジカコスモス vol.04》

2020/03/07(土)開催。

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