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惡の才能

冷たくて硬くて、仏頂面で、毎回毎回、息を吹き込んでやらないと機嫌を損ねてしまう。ソフトが仏頂面ならハードも仏頂面、小学生の手にもボタンの緩さがバレバレで、そのくせ、四角い画面に映し出される世界は現実のそれよりよっぽど奥行きがあるように思えた。

小学生が中学生に、中学生が高校生になるにつれ、少しずつ、ソフトもハードも愛想が良くなってゆく。丸くなったり、キューブになったり、最近はダンボールでおしゃれを嗜むようになった。四角い画面はどんどん薄く平べったく、無数の点で描かれていた世界は次元を1つ、2つと繰り上げる。

 

ただ、

 

発展していくあまたの世界をプレイしてきた今、ひとつだけ、不満が取り残されている。──なんで、私に動かせるのは主人公だけなんだろう?

世界征服だとか世界崩壊だとか復讐だとか、誇らしげに自分の夢を語り高笑う悪役たち。「世界を救う」「愛する人のために」などと嘯くヒーローたちを眼下に、私情丸出しで世界の一つや二つ平気で滅ぼしてしまう、愛おしい努力家たち。

彼らは間違いなく才能のカタマリで、紛れもなく生きているのに、なぜ私は、惡の立場であの世界に立つことができなかったのだろう。紅蓮の魔導師とか黒の貴公子とかシャロームとかシャリとか皇帝とかアルティミシアとかキアラとか。

惡の華それぞれ

例えば、世界をぶっ壊そうとする奴がいる。

町や国ではない、世界をぶっ壊すのである。まず、そこからしてスケールが違う。視点が違う。どうすればそういう発想になるのだろう。よっぽど世の中が嫌に違いない。いや、どんなに世の中が憎らしいものだったとしても、そこで「この世界をぶっ壊さなきゃ気が済まないしそのためならどんな努力も惜しまない」という決意に至るエネルギーがすごい。才能だと思う。

さらにいえば、その理由さえ明らかにならない奴がいる。ゲーム開始時から純度120%の天然惡である。これには初期のドラクエ、FFあたりのラスボスが該当する。なんかよくわかんないけどOPから世界侵略を始めていて、ともかく自分以外のやつはみんな虫けらゴミクズで、「全ては自分のものだ」という自信に満ち満ちている。なぜ。それはわからない。むしろ理由なんて存在しないのかもしれないし、存在しない方がかっこいいと思う。最近の若者はすぐに悲しい過去を持ち出したがるのだが、そんなもんパラメキア帝国の皇帝陛下から言わせれば甘い甘い虫けら以下だ。ともかく俺が一番ほかはクズ、自分に支配できないものなどないのだ。堂々としていればいい。

 

それから、ファッション・センスも大事である。ここのところどうもクールでスタイリッシュな輩が多いのだが、惡ならばそこは時流に逆らえ。やたらごつかったり趣味が悪かったり、全身鎧の巨躯であるとか、最終形態がエイリアン顔負けのグロさとか。皇帝陛下を見習ってほしい、あんな全身金ピカでツノが生えててどうみたって歩きにくい超ハイヒール、その立ち姿ときたら謎の徒手空拳の構え、天野喜孝神は一体、何を思ってあのポージングになさったのか。20周年記念のお祭りゲーに至っては、その超ハイヒールで蹴りは入れるわ自分のフレアで逃げ惑うわ、挙げ句の果てに空中椅子が特技と化した。飛んだ体育系皇帝陛下である。

 

道中、主人公への嫌がらせの質も問われる。ここは惡の見せ所、ただ仲間を拉致ったり故郷を滅ぼしたりするだけではなく、その折々で、どこまでこちらの怒りボルテージを上げてくれるかがキモだ。いわばテクニカルポイントである。限られたメッセージ欄と演出内で、できるだけシンプルに明快にこちらの神経を逆撫でしてほしい。豪華声優の演技はいらない、3次元の美麗グラフィックもキャラ造形もいらない、たった3行の荒いフォントと、ドット絵かポリゴンさえあれば、あなたの惡はきっと伝わる。賢雄とあっちゃんはだいしゅき。

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されど惡の華は散る

そして、彼らは負ける。少なくともシステム上は。

 

負けない悪役もいるだろという差し水はトイレ洗浄、惡の華は、その散り際こそ最も重要である。

高笑いして「また帰ってくるぞ」的な台詞もかっこいい。これはカオス型。意味深な言葉を残してファンの間に物議をかもすのもまた良い。これにはFF6のケフカやFF8のアルティミシアが該当する。三角様の最期は言うに及ばず、彼は最期までグロくて、残酷で、セクシーだった。

だが、最期の最期で同情とか哀れみを誘うようなやつ。てめーはダメだ。本編、ちょいちょいモノクロとかセピア色のジャブを挟むのもダメだ。覚悟が足りん。根性も足りん。地獄からやり直してこいと、皇帝陛下は仰せである。だったらいっそのこと、最期まで自分の敗北を認められず、いっそ情けないほどに足掻く方が百倍よい。だって、一度地獄から這い上がるどころか、リメイク版では善と悪に分裂して、天上界をキレイなツラして支配してると思ったら中身はやっぱり皇帝でWウボァーかましてくれるんだぜ?

 

もちろん、誰だって死ぬのは怖い。

志半ばであればなおのこと、その悔しさは計り知れない。が、一度世の中をどうこうすると決めてしまった以上、腹を括って最期まで惡を貫くべきだ。初志貫徹。惡の才は、この四文字に尽きる。

クレオとPちゃんはやめてください泣いてしまいます。

おまえは いった‥い な‥にもの‥‥

自分のために生きる。

簡単にいってくれるもんである。

それがいったい、どんなに困難なことか。自分以外の誰かのことなど忘れて、ただひたすら、己の道を信じ、己の力のみを確かなものとして進むとしたら、それは間違いなく、惡の華道だ。

他の誰でもない、ただ自分のためだけに「惡」となりながら、その自覚すらない人間が、この世にいったいどれほどいるだろうか。

 

惡はたぶん、才能なのだ。私は彼らの才能を、今でも羨んでいる。ウボァー。

 

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加藤 綾子
ヴァイオリニスト。 biography