日記帳

さるすべりのある庭に帰りたい。──梨木香歩の裏庭で立ちすくむ

ふと、「庭に帰りたい」と思うことがある。私は庭など持ったことがないのに、その庭にはさるすべりの食紅みたいな真っ赤な花が咲いていてほしいと思っている。たぶん、その理由は裏庭にある。

梨木香歩については、もうなんだか今更語ることもないように感ぜられる。2018年のいま、おとなになった少女たちの中には、彼女の作品に触れたことのある人々も多いんじゃないだろうか。

 

彼女の作品には、いつだって庭があり、少女がいる。「裏庭」はまさに庭を舞台にしたファンタジー小説だけれども、例えば「からくりからくさ」や「西の魔女が死んだ」、いろんな作品に、いつも庭の影がある。

ここでいう庭は、つまり、誰かが丹精したものであったり、ほとんど自然の成り行きに任せたものであったりする。作品ごとに庭のなす役割は違うけれど、それは個人にとっても全く同じことで、そもそも庭を持たない人だっているのだった。わたしだってそうだ。

わたしがかろうじて思い浮かべる庭は、夏休みの思い出にしかない。

梨木香歩が描く庭は、わたしが欲しいと願う庭を映していた。ジャムを作ることができる。素足で踏み込んで、横たわることができる。少女たちが引き継ぎ、庭師ごとに姿を変える裏庭。あるいは、祖母が与えてくれた、孤独な少女だけの秘密の場所。レベッカの裏庭は桜の大木が核を成していたけれど、わたしの庭にはさるすべりがあって欲しい。それは誰にも必要とされない場所でかまわない。

 

庭を持ちたかった。わたしはずっと、自分だけの庭が欲しい。誰にもわからない、自分だけに読み解くことのできる暗号が散りばめられた、ひみつの裏庭が。

そこではきっと、脱ぎ捨てられた鎧も音ひとつ立てず土に還るのだ。

ABOUT ME
加藤 綾子
フリーランス音楽家という名のフリーター。 後ろ向きだっていいじゃない 人間だもの あやこ という意識の低さで生きている。ヴァイオリン演奏・ライティングなど、お仕事のご連絡はこちらにお願いいたします。ayakokatovn@icloud.com